【連載小説】「TORIKA-忍術伝-」① by ますあか

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伊賀 Iga

毒手裏剣 Poison Shuriken

手裏剣 Shuriken

"料理が壊滅的(毒)けど本人は気が付いていない"

毒の花を育てるガーデニング女子

植物園を経営しているが隠れ里なので観光客が来ない

※  ※  ※ (現在 観光地「忍びの里」の外れにある植物園)

酉花(とりか)「おかしい、こんなにきれいに咲いているし、いんすた?映えもできるのに、……お客が誰も来ない。宣伝を間違えたかな?」

ハヤテ「いやいや、毒の花一色じゃないか。しかもトリカブトがたくさん生えてるし」

酉花「今の季節は、トリカブトが見頃なの」

ほらっとトリカブトを摘んで、儚げな花を見せてみる。ハヤテはうっと顔をしかめる。

ハヤテ「トリカブトを素手で扱うなんて、毒の耐性強すぎるだろ……。一般人に触らせるなよ。騒ぎになったら観光客なんて来なくなるからな」

ハヤテはなぜこんなにも顔をしかめるのだろう、素敵な花なのに。はあっとため息をつき、

酉花「私が求めているお客は忍者文化に触れたい観光客であって、花の魅力が分からない忍者ではないんだよ」

花の魅力が分からないこの男には、このくらいの文句を言ってもいいものだ。ハヤテはいかにも面倒くさそうな顔をして、

ハヤテ「分かった、分かったから! 頼んでいた花を早く渡してくれないか?」

投げやりな態度をする。私は用意していた花を袋に入れて手渡した。袋の扱い方から花好きではないことが簡単に伝わってくる。

ハヤテ「相変わらず、よく育ってるな。腕がいいよ、ほんと。今度また依頼するから、その時はよろしくな」

ハヤテはなぜ花が好きなわけでないのに、私に花の調達を依頼するのだろう。そんな疑問を浮かべながら、ハヤテが観光地「忍びの里」の人気エリアへ戻っていく姿を見送った。

※  ※  ※ (酉花の回想 1年前 観光地「忍びの里」)

__忍びの里

かつて忍者が住んでいたと言われるゆかりの地。

今は忍者文化と接することができる観光地「忍びの里」になっている。

私は酉花(とりか)。

この観光地「忍びの里」で忍者見習いをしている。

主に観光地「忍びの里」植物園の手入れを担当している。

最初の頃は、「忍びの里」の給仕や調理担当をしていたのだが、初日で

「君には別の仕事が向いている」

と料理長から美化担当に移るように鬼気迫った表情ですすめられた。

そのあとは美化担当として掃除を行ない、なにごともなく仕事をこなしていた。1ヶ月の間、仕事が続いたのだから問題はなかったと思う。

ある日、掃除をしていると庭の花たちに元気がないことに気づき、思わず手入れをした。

そこから令さんに許可を貰い、美化の一環としてガーデニングを始めた。数日後、いきなりハヤテが私を美化担当から外したのだ。

「こんな花を植えたら、観光客がこなくなるだろ!」と言っていたが納得がいかない……。

私の美的センスは人とずれているとのことだったが、そんなにあわてて止めるほどのことか。

そんな忙しい日々を過ごしながら、私が「忍びの里」にやってきて1年の月日が経過した。

ここに来る前の日々が遠い昔のようだなと「忍びの里」に来る前の生活に思いを馳せた。

※  ※  ※ (酉花の回想 2年前 日本のとある集落)

私は人よりも猫のほうが多い限界集落にばあ様とふたりで暮らしていた。

ばあ様は花を育てるのが大層上手な方で、いつもニコニコと花の手入れをしていた。

しかし、ばあ様は数年前にこの世を去った。

ばあ様が居なくなって、ひとり寂しく生きていた私にある令(れい)というきれいな女性が訪ねてきた。

私はじいさんとばあさん位の年が離れた年代の人と接することが多く、令さんのような年齢の女性と接したことがなかった。

令「あなたが育てる花は、すごいわねえ。こんなに立派に育てられたトリカブトは初めて見たわ」

令「あなた、名前はなんて言うのかしら?」

酉花「と、とりかです」

令「どんな字を書くの」

酉花「十二支のニワトリの酉(とり)に花と書いて、酉花です」

令「ふふ、素敵な名前。将来お酒に強そうな美人さんになりそうね」

酉花「へへっ、そうですかね」

私は令さんのお世辞に思わず気をよくした。

令「酉花という名前は、他にも由来があるのではないかしら」

酉花「えっと、トリカブトもかけて名付けたって言ってました。私が生まれた日は、トリカブトがとてもきれいに咲いていたって」

それから令さんと色んな話をした。こんなにぽんぽんと会話できるのは初めてで、とっても楽しい。

ばあ様がいなくなってから、ずっとひとりで寂しかったんだな。それから楽しい時間はあっという間に過ぎて、令さんがお暇する時間になった。

令「ねえ、あなたこれからどうするの」

酉花「えっ、私ですか」

令「ここの土地なんだけどね。新年から宅地開発されるそうよ」

酉花「ええ?!」

令「ねえ、もしよかったらなのだけど「忍びの里」に来ない?観光地なのだけど、人が足りなくってね」

酉花「でもばあ様の土地から離れるのは」

令「あら、お祖母様の遺言見ていないのね」

酉花「えっ?」

令「私がここに来たのは、あなたのお祖母様に頼まれたからよ。あなたを頼むってね」

酉花「ばあ様が?」

令「きっとお祖母様はあなたに遺言を残していると思うから探してみて、返事はそれからでいいわ。明日また来るわね」

そう言って、令さんはするりと風のように去って行った。

酉花「この村の外に出る?」

なんて魅力的な申し出だろう。その瞬間、私はばあ様が何かあったら、これを頼りにしろと言われた箱を探した。

箱の中には、手紙と薬瓶が入っていた。

※  ※  ※  (1年前 とある山の中)

鷹の目から、ご意見番が家を出た様子を観察していた。

ふと、ご意見番の目が鷹の目を通してこちらと合う。

もう用は済んだようだ。

私は鷹に戻ってこいと合図をして、ふと考え事をした。

ご意見番がわざわざ出向く相手とは、いったいどんな人物かと思ったら、年が15,6くらいの”普通”の女子だった。

いや、毒草を素手であそこまで育てられる時点で、普通ではないか。

だが、私達と同じように忍者として修行し生きてきた訳ではなさそうだ。

ただ彼女は”普通”に毒草や毒花を育てている。

私が思考を巡らせていると、いつのまにかご意見番が私の背後に立っていた。相変わらず、動きに無駄がなく、気配を感じさせない。

ハヤテ「ご意見番、なぜ彼女を忍びの里に呼んだのですか」

令「近代に入って、忍者は衰退していくだけだった。伊賀はその運命をよしとしたけど……」

ご意見番は困ったように目を伏せてこう言った。

令「最近風魔の動きがおかしいのは知っているわよね。なんだか嫌な感じがするの。伊賀は忍者が少ない中、お上の名の下、風魔に対応しないといけない。それに……」

ご意見番はふと私のほうを見ると、静かに微笑んでいった。

令「ハヤテ、あなたも風魔の動向が気になるのでしょう」

この人の所作はどきりとする。美しいのにどこか恐ろしい、まるで彼岸花のような。私はご意見番に内心を見透かされているようで、居心地の悪い思いをしながら、

ハヤテ「……敵いませんね、ご意見番には」

こう呟くしかなかった。私の返答にご意見番は、ふふっと笑いながら、急に真剣な表情に変わった。

令「この地で風魔が居た痕跡があると報告があったわ」

ハヤテ「風魔はこの地で一体何をしようとしているんだ」

令「分からない、この地で何かを探していたのは確かよ。そして風魔が居た場所に師匠が暮らしていたのは偶然ではないはず。師匠は何かを守っていたのかもしれない。そして一緒に暮らしていた酉花」

ハヤテ「酉花のお祖母様は、ご意見番に手紙を渡したと……。あの子は何者なのですか?」

令「酉花の出自は不明なの。師匠は何も教えてくれなかったわ」

本当だろうか、ご意見番は私に何か隠していないだろうか。

ハヤテ「……」

私の疑っている表情に気づいたご意見番は、困ったように笑ってこう言った。

令「だからね、酉花には自分の身を守る術を覚えてもらいたいの。ここ数ヶ月一緒に暮らしてみて思ったわ。とってもいい普通の子なのよ、あの子は、だから心配になるわ。ここで暮らして果たしてあの子にとっていいことなのか」

令「でも、これは私の勝手な願いね」

ご意見番が言った今の言葉は、嘘偽りのない本音のように感じた。





作:志稲 祐 @masuakaxrart

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>まとめて読む 千葉市中央区某所に、その便利屋の事務所はある。 【便利屋】。日本で仮想通貨が法定通貨として認められ、ラグの少ない送金が可能になったことで、NFTを始め様々なジャンルの個人事業が盛んになった折、徐々にその規模を膨らませつつある業種だ。 五階建ての雑居ビルの一階に、およそ五坪という、ごく一般的な家庭のリビングと相違ない広さの事務所は、できたてのみたらし団子の香りで満ち満ちていた。 事務